被購買力の3要素のうちのひとつ、「知識経験」の強化編の説明に入っていく。
本記事では、営業マンとしての側面での知識経験を重視していく。
基礎編とのちがい
基礎編においては主に化学品に関する技術的な知識経験の大切さを説明した。
お客様からなされる、自社の製品に関する質問に、その場で即答できることを目指した。
おさらいになるが、
「これってAと一緒に使えるんですか?」
と聞かれた際に
「えーと…技術部に確認しますね」
という受け答えが多くなると、お客様はその営業マンのことを「頼りにならないなぁ」と感じる。
当たり前の事だ。
しかしながら、いきなり全ての知識をマスターする事も難しいこともまた事実。
特に文系出身であればなおのことだし、僕もそうだった。
ただ、一度経験したことはしっかり勉強して、次回は話せるようになりましょう、という話だ。
そのためには案件にあたって、わからないことがある度に、技術部に聞いて、理屈を教えてもらい、ネットで調べていく。
そうやってひとつずつ自分の血肉にしていく作業を2年ほど行う。
「俺は文系だから・営業だから」
と放棄しないこと。
勉強するんだと覚悟して、勉強する気持ちを忘れずに日々過ごしていくと決意すること。
その決意のみが基礎編で大切なことだった。
その気持ちさえあれば、2年間の実務経験で十分な技術的な知識の基礎はできているはずだ。
営業としての知見拡充
さて、そのように技術的な基礎が完成したら、次には「営業的な知見」も拡充していくと、同じく覚悟していこう。
「営業的な知見」とは、商売をしていくという切り口で使える知見を指す。
具体的にはまず、
- 勢力関係
- 市況
- 歴史
- トレンド
- 法令
これらを把握する。
対象となるのは
- 自社の所属業界(競合他社)
- お客様の所属業界
- 末端商品の市場
このあたりをまずは勉強していく。
順に説明していこう。
所属業界の知見
まず自社の製品にはよほどのことがなければライバル、競合他社がいるはずだ。
それらの競合他社の歴史、実力、シェア、特性などを知っておくと、実際に競合したときに対応方法に幅が出る。
外側から、つまり素人の目で見ると、このことはあまりわからない。
しかし化学メーカーの内側に入るとこの絶妙な違いに知ることになる。
この絶妙な違いによって多くの製品が成り立っているということも知る。
表記上は同じ成分が同じだけ入っているはずなのに、A社のを使うとうまくいかなくてB社のはうまくいく。
なお原因はわからない。
というようなことが製造現場ではよく起こっている。
それは非常に微妙な差異によって起こる。
分子量の微妙な違いだったり、大元の原料の原産地が異なるとか、計測できないレベルの微量な不純物のあるなしだったりする。
化学物質も、結局は天然物を加工しているし、完璧な工業製品もまた存在しないから、そのブレの中で、メーカー各社は製品を作っているのだ。
そして、ライバルの化学メーカー各社とも、似たような事業をしているように思われるが、実はその中に得意分野と不得意分野がある。
そのことはホームページなどからでは読み取り切ることができない。
なぜなら各社とも、「うちは幅広く対応できる技術力をもったオールラウンダーです」とアピールしがちだからだ。
この分野は得意ですが、こっちはイマイチです、と正直に公表しているメーカーは少ない。
そして実際、会社の技術力というのはその会社の中にいる人(技術部の人)がどれだけその分野に慣れているか、場数を踏んでいるかに左右される。
技術部というのは人の集合体であり、その中には若い技術者から来年定年のベテランまでがいる。
もちろん全ての知識経験を次世代に引き継いでいくことが好ましいが、実際にはそのような事は起こらず、会社の技術力というのは属人化している。
よくないことなのだが、実際はそうなっている。
そのため、会社ごとに
「この分野は得意」
「この分野はあまり知見がない」
ということが起こっているのだ。
先述のように技術というのは属人化するから、昔は得意だった分野でも、人が入れ替わればそのノウハウは一気に失われて、オーパーツのようになってしまうことも数多くある。
自社の得意不得意
前置きが長くなってしまったが、このようにしてメーカー各社には得意不得意の「ゆらぎ」が存在している。
ここを営業マンとしての知見としておきたい。
当然、自社の技術部のメンバーの得意分野なども把握して、新規顧客に当たっていく。
不得意な分野の案件をやらせてみても、効率は良くないからだ。
技術部メンバーにもプライドがあるから「できません」とは言いにくく、結果として不得意な分野でイマイチな戦いを続けていく羽目になってしまう。
このように泥沼化してしまうと、当然、お客様にも迷惑をかけてしまうし、結果として商売にならないので、この営業としての知見の拡充は外せない。
また最近の兆候としては、不採算な事業は撤退する動きが化学メーカー各社に出てきている。
自社のシェアが小さかったり、不採算だったり、製造設備が老朽化して多額の修繕費がかかる場合などには撤退する。
もしくは撤退までいかなくても、もはや開発や改善に人員を割いていない分野だったり、商材があったりもする。
採算是正と称して値上げをする場合もある。
このような業界トレンドを把握しておくことも、売れる営業マンには必要となる。
ライバルが弱っている分野を攻めることはもちろん、自社が得意でない領域を避けるという判断ができる。
お客様の業界について
自社および競合他社の知見が広まってきたら、続いてお客様の所属業界についても勉強する。
勉強するポイントは先述の自社の所属業界と同じで市場シェアや歴史、法令やトレンドなどだ。
- 圧倒的チャンピオンがいる市場なのか
- 数社で群雄割拠している市場なのか
- 特殊品で生き残っている会社なのか
- 法令の取締が強化されつつある業界か
お客様の業界を知ることによって、どの業界・お客様についていったほうが得なのか、がわかるようになってくる。
僕は駆け出しの頃、新規顧客の開拓に焦っていて「案件があるならば」と小規模のお客様も積極的に訪問した。
そして実際に採用されるのだが、その最終製品が全然売れなかった。
結果、僕の成績も上がらなかった。
そこで気がついた。
売れるお客様についていかないと、結局は売れないということに。
当たり前のことなのだが、いざ自分が当事者になると小さな案件でも追いがちだ。
小規模のお客様は、どうしても小規模な数量と、安い単価しか提示できない。
ボリュームもないし、高くも買えない、そして売れない、というのが弱小の中小メーカーの現実である。
僕ら化学メーカーの営業マンは、その部分は冷静にジャッジしていく必要がある。
勝ち馬に乗らなければ、ラクはできない。
勝ち馬を探すには、そのお客様が所属業界においてどんな存在感を持っているのかを知ろう。
圧倒的チャンピオンのフトコロに入るのはベストだが、最初からは難しい。
そのため、業界で中堅として知られるようなクラスの会社を3年目からは狙っていきたい。
最初はスライム狩り
先ほど、弱小なメーカーでは商売にならないという話をした。
しかしこれは期間限定で取り組んでもよい。
なぜなら2年目までは知識経験がないから、その練習台には最適なのだ。
知識経験レベルが低い状態でいきなり大きなお客様に挑むと、当然ボロボロにやられてしまって、お客様からも「使えない会社だな」という烙印を押されてしい、もう会うことが難しくなる。
第一印象で失敗したということになる。
そのため規模があるお客様は3年目までは温存しておき、自分に知識経験を積み上げてから再チャレンジするのが好ましい。
ただ、このことをよく理解していない上長もいて
「なんでA社に営業かけないんだ!あそこは大きいぞ」
と発破をかけてくるパターンもある。
その場合は全力で勉強していくしかないが、これがまた成長につながることもある。
※とはいえ、自社の技術力が追従してこないと、やはり実現はできないので、割り切りもあってよい。
以上、営業としての知見の拡充について説明した。
この「営業としての知見」はお客様からの見え方(第一印象)にも、自分の成績を上げていくためにも、必要な知見だ。
これもまた、身につけようと決意して、日々の業務にあたっていこう。
続き:お客様の課題を先回り
コメント