エピソード5 復帰と失望

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自分語り

僕の名前はヤコバシ。

成果を出したがゆえにブラックを憎む男。

前回の記事で、僕は退職勧告も同様の配置転換を受け、自主退職を促されていた。

しかし、いろいろあって、営業職に復帰する事ができた。

懲罰的な意味合いが強い配置転換において、舞い戻るというのは初めてのケースだった。

この記事では、その過程の「いろいろ」をお話ししていく。

浦島太郎

僕は9ヶ月間現場で働いていたので、営業部については浦島太郎状態だった。

そして、その9ヶ月間で、ますます社長はおかしくなっていた。

  • 3時間おきに部長に電話し面談結果報告
  • 携帯にGPS機能、抜き打ち居場所チェック
  • 営業成績の棒グラフ張り出し
  • 成績悪い営業マンは坊主頭にさせられる
  • 成績悪い営業マンはエレベーター使用不可(30F以上ある)

営業マンへの締め付けは相当なレベルに達していた。

毎晩19時からミーティングが始まり、

見積が取れたのか、

契約書をもらえたのか、

毎晩激詰め大会であった。

僕ではないのだが、キレた部長に重めのボールペンを頭に投げつけられてリアル出血した同僚もいた。

訴えたら一発だが、皆おびえていてそんなことはできなかった。

恐怖が支配する職場になっていた。

その原因は、事業部の営業成績が悪く、人件費で事業部が赤字になっていたからだった。

会社全体としては黒字だったが、利益を出している他部署の利益を回してもらって存続している状態だった。

僕はこの会社に、黒字だから入社を決めたのに、事業部単位で赤字では意味がなかった。

僕が思うに、この会社は会社規模に対して新卒を採用しすぎだった。

その新卒の受け皿として、この部署に新卒がどんどん押し込まれていたから赤字部署になっていた。

社長は、営業マンが多ければ成果が増えるはずだと踏んでいたようだが、実情はそうではなかった。

実際、5人くらいで十分に回るのに10人以上いた。半分は入社1~2年目だった。

ベテランが数人で、新卒や2年目の数が最も多い、発展途上国のような人口ピラミッドだった。

当時、僕は3年目だったが、上から数えた方が早かった。

もう僕の同期は皆辞めていて僕が最後だった。

ちなみに部長は30代で取締役だった。

そんな会社だから、社員に施工のノウハウがない者が多い。

だから仕事が取れないのだと僕はすぐにわかった。

そして営業マンたちは社長や部長からの激詰めに疲れ果てて、自分の数字に必死になっていて後輩を指導する余裕がない。

新人は激詰めされて、必死に飛び込み営業をしてしまって、逆にお客さんに嫌われてしまうという悪循環に陥っていた。

変化に対応できない社長

この悪循環は、現場の営業現場の実態を知らない社長が作り出した状況だった。

部長は社長に逆らえないので、社長の方針に従うほかない。

社長が自ら営業していた頃は20年前で、あらゆる状況が違っていた。

まず、自社製品は20年前は画期的な商品だった。

しかし、その20年間の月日により類似品が出回り、価格競争に巻き込まれていた。

さらに20年前はゼネコンとよりもビルオーナーや設計士への直接営業が主で、訪問件数を増やすことは確かに効果があった。

そのため、当時は多くの実績を作れた。

その中で、ゼネコンから仕事をもらうスタイルへ変質していった結果として、会社はゼネコンを無視してオーナーへ営業にいけなくなった。

具体的にはお客さん(ゼネコン)を飛び越えてオーナーに営業へは行けなくなっていた。

僕らはこのフェーズにいた。

そういう環境であれば、ゼネコンとのパイプを太くする方向に舵を切ったほうが良かった。

安易にお客のお客に飛込み営業して嫌われるよりも、地道に実績を増やして、紹介をもらいながら、新人に経験を積ませてゆっくり育てていくべきだと思った。

それは以前、僕が社長に進言して、懲罰的な異動を食らった内容なのだが…

やはり僕の指摘は当たっていたと思う。

しかし、またケンカするのも馬鹿馬鹿しかったので、やめた。

営業にとっての責任

僕は社長や部長に従う事をやめた。

実情をわかっていない人たちに何を言っても無駄だと思い知ったからだ。

しかし成果は出さなくてはならない。

営業にとっての責任とは、従うことではなく、成果を出すことだ。

僕はかつての担当先を、現場への異動時に全て後輩に譲ってしまっていたので、またゼロからのスタートだった。

結果から言うと、僕はまたもや数多くの新規開拓に成功し、超大型の案件も獲得した。

これも運が良かったのだが、この運に出会うための努力もした。

小型の新規開拓は従来のスタイルで、ターゲットを探し出し、負担にならない程度に接触し、提案をしていたらしかるべきタイミングがきて、売れた。

僕は現場の経験を通して、観察眼を身に付けていた。

僕が役に立てそうな箇所を見つけて、効果的に営業していたからハマりやすかった。

4ヶ月で2件新規開拓し、件数だけなら部内トップ。

僕は部長にほめられて、皆の手本とされたが、心は空虚だった。

もはや社長や部長に愛想が尽きていた。

その頃、一気に3つの出来事が発生した。

社長への失望

まずは、社長が現場の人を吊るし上げにした事件。

会社への不満を現場で話していたことを、内定者が社長にチクった。

その不満は的外れなものではなかった。

しかし、社長は烈火の如く怒り、その現場の人を全社朝礼で吊るし上げにした。

着慣れないスーツを着て、全社朝礼で皆の面前で反省文を読み上げさせらる。

声は震えていて、見ている方が辛いほどだった。

彼は、僕がかつて一緒に現場で働いていた仲間だった。

だから僕も思い入れがあったのだが、それを抜きにしても、なんという仕打ちなのか。

なぜ社長はこんなひどいことが平気でできるのだろうか。

次は社員旅行。

宴会で、とある営業の先輩が社長たちのオモチャになった。

その先輩は、直近で彼女に振られてしまっていた。

それを徹底的にイジる社長。

カラオケで替え歌を披露していた。その人をバカにする歌詞を作って…これが代表取締役がやることなのだろうか。

最後は、『NOと言えない若者がブラック企業に負けずに働く方法』との出会い。

この本により、ブラックを助長しているのはそこで働く社員自身であると学んだ。

(参考記事:ブラック洗脳を解く 推奨書籍

そして僕はそのとき、入社から丸3年が経過していた。

世間で言う「3年は勤めろ」をクリアしていた。

正直、両親も盛んに転職を勧めていたし、友達も僕を心配していた。

ただ僕は、成果が出せないうちに辞めてしまったらダサいと、自分の美学に従った。

成果を出して退職届を叩きつけてやる、スラム退職届してやると燃えていた。

巨大案件一本釣り

そして僕は社長や部長の方針は全シカトしながら、有効な営業だけを行った。

有効な営業とは、これまでの営業活動の集大成だった。

手当たり次第に飛び込み営業して新規開拓していくスタイルは、もうできた。

しかしその方法では、小さな新規開拓がほとんどだった。

よく考えたら当たり前だ。

そんな道端に落ちているような案件は小さい。

僕は新規開拓件数は多かったけれども、金額がどうしても足りなかった。

それは、このスタイルに起因していた。

そしてこのスタイルこそ、社長や部長から授けられ推奨されていたスタイルだった。

だから多くの新人営業マンは成果が出せない。

出せたとしても、僕みたいに小さな新規をたくさん開拓するのが関の山だった。

僕は大きな案件を一本釣りするスタイルを始めた。

大きな案件は大きなお客さんのところにしか来ないし、そんな情報はその辺には転がっていない。

僕は自分が持っている人脈をフル活用して、超大型プロジェクトの存在をつかんだ。

とあるビルで超大規模改修工事が行われるという情報だ。

しかし、その工事を担当するゼネコンとはつながりが一切なかった。

その担当者に営業にいこうにも、居場所がわからないというスタートだった。

テクニック集大成

僕は、これまでのように将を射んとすればまず馬を射よ、と思い、

そのゼネコンと取引がありそうな中小の業者から攻めていった。

そこから、ロールプレイングゲームのように人から人を紹介してもらいながら、ついに有力なヒントにたどり着いた。

都内のとある地域には、☆☆ビルという☆☆の部分が共通しているビルが密集しているところがある。

僕が得た情報は、この☆☆ビルのうちのどこかに、ターゲットとなるお客さんの事務所があるよ、という情報だった。

僕は10棟くらいあったこの☆☆ビルシリーズに片っ端から行って、とうとうターゲットの事務所を発見した。

まさにロールプレイングゲームだった。

そしてオフィスに飛び込み訪問だ。

全くの新規顧客に接触し「初めまして」からのスタートをした。

何度も経験したことだったからわかるのだが、営業というのは「初めまして」が最重要だ。

そして価格交渉や書類など、色々あって大変だったけれども、僕はこの超巨大案件を受注することができた。

3ヶ月分のノルマを一撃で賄えるような案件だった。

こうして新規開拓件数だけでなく、数字でも部内1位を達成できた。

思えば、小規模なお客様への新規飛び込みで培った営業テクニック、現場作業で得た現場経験と知識、それらの集大成がこの巨大案件だった。

僕はもうこのブラック企業での営業に未練はなくなった。

僕はこのブラック企業を卒業できた。

続き:EP6 僕みたいになるな(最終章)

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