善き友であることの強化編、続いては「共謀する」について説明していく。
マジメな新人営業マンには少し抵抗がある内容だが、これができなければ新人から一皮剥けることは難しい。
考え方を知り、ぜひ身につけてほしい。
結局「良い人」とは…
まず、ここで使う漢字は「善い」ではなく「良い」なのだが、この字が意味するところは「都合が良い」という意味である。
ことビジネスにおいては、損得も見逃せない。
お客様から見たら良い営業マンとは、
「良いものを、安く売ってくれる」
である。
逆に営業マンから見た、良いお客様とは
「大量に買ってくれる」
である。
つまりは両者ともに「儲けさせてくれる」のが良きビジネスパートナーなのだ。
その他にも、信用とか、人間的に好きとか、実績があるとか、色々な要素が絡んでくるのだが、営業マンとお客様の関係は、まずはビジネスのつながりから始まる。
そこでは「儲けさせてくれる」が結局のところは大切なのだ。
ここはキレイごとでは誤魔化せない。
ビジネスをする前提条件なのだから。
そしてこの「儲けさせてくれる」がほぼ同条件の会社がいくつか出てきたとき、そこで初めて僅差をつけるのが、営業マンの人柄とか実績(安心)とかなのだ。
そのため、まずはお客様に得をさせる営業マンがやはり最強なのだ。
決裁権者を納得させるために
さて、多くの場合はお客様もサラリーマンである。
購買部長、資材部長、技術部長、生産管理部長、総務部長などなど…
もしくは部長でなくても、課長や係長、主任かもしれない。
これらの人々に共通するのは、上長に決裁を仰がなくてはいけないという点だ。
購買部長であっても、大きな案件の場合は役員や社長に決裁を仰がなくてはいけない。
課長なら尚更だ。
唯一、自分で決定できるのは社長だけだが、社長と直接交渉するという場面は少ないだろう(小規模企業が相手の場合にはあるが…)。
そのため最終的には、対面しているお客様の上司を一緒に説得しなくては、正式採用とはならない。
そういう背景は、営業マン(自分)も同じである。
あなたにも営業部長という上司がいるはずだ。
特に見積を提示する際には、上司に
「この値段で提示してもよろしいでしょうか」
と相談するはずだ。
そこで大切なことは何なのか?と突き詰めていくと、結局のところ、
決裁権者がOKするかどうか
これしかない。
明らかに良いものが安く買えるならお客様の上長もOKするだろうし、
すごく儲かる案件ならば、あなたの上長である営業部長も見積書をOKするだろう。
しかし残念ながら、双方がニコニコ・ホクホクで握手するような案件は、ほぼ無いのである。
ブラックボックス伝書鳩
営業マンは、お客様陣営と、自社陣営の間に立つ伝書鳩だ。
自分はもちろん自社陣営の所属である。
しかし実際には、その意識が強すぎるとお客様にとって「良い営業マン」にはなれない。
そう「都合の良い」営業マンにはなれない。
「いえ、弊社はこういう方針ですので、定価でしか販売できません」
と紋切り型に対応されたら、お客様は面白くない。
お客様はいつだって特別扱いを求めている。
そのため「良い営業マン」は自社に軸足を置きつつも、片足のつま先はお客様の側に立つ。
自社からの指令を全ては伝えないし、お客様の意見も全ては報告しない。
秘密を握り込んで、ブラックボックスにする。
ブラックボックス伝書鳩になる。
逆に、ブラックボックスでない、普通の伝書鳩とは、お客様の意見を包み隠さず伝え、自社の方針も包み隠さず伝える…まぁ文字通りの伝書鳩だ。
新人営業マンはまずはこれを徹底的に叩き込まれるはずだ。
もちろん会社としてはいきなりブラックボックス伝書鳩が大量発生したら困るから、このように通常の伝書鳩をまずは育成しようとする。
しかしながら、この普通の伝書鳩は、軋轢ばかり産んで、結局は交渉が上手くまとまらない。
なぜならお客様も自分の利益を主張してくるし、自社も儲けを主張するからだ。
お客様が
「半額にしてくれたら買う」
と言ってきたとする。それに対して通常の伝書鳩だと
「社内で検討したのですが、半額では売れません」
と回答してしまう。
これではまとまるはずもない。
そうではなく、ブラックボックス伝書鳩の場合には
「半額にしてくれたら買うよ」
と言われた時に
「そうしたいのは山々なんですが、単に安くするのは社内の原則上難しくて…
今後、倍増する計画があるとか、他の商品も一緒に切り替えてくださるとか、競合他社品がいくらとか、そういう情報があれば社内で掛け合いやすいです…
そうしたら、半額はは無理でも3割くらいなら、決裁引き出せると思います」
という感じで、お客様に自社の手の内を晒す。
ここまではできるけど、こういう条件ならここまではいけると、もう教えてしまう。
駆け引きせず、自社の交渉のカードを全て見せてしまう。
もちろん、このように手札を晒すことは社内では禁じられているであろう。
だからこそ効果がある。
それを聞いたお客様は
「そうなの?そうか…それなら…」
と検討してくれて、できるラインとできないラインを提示してくれるだろう。
当然、自社にも譲れないラインはあり、お客様の要望を丸々受け入れることはできないだろう。
結局は、それらの落とし所をお客様と協力して見つけていくのが営業マンの仕事なのだ。
この落とし所を密談する部分がブラックボックス伝書鳩だ。
上司からは見えない、営業マンのみが知っている交渉内容。
上司が同行しない限り、その内容はブラックボックスなのだ。
共謀する
こうして、お客様とそれぞれの上司(決裁権者)から、どうやったらOKをもらえるか?を密談していく。
お客様「その値段だと多分OK出ないと思う…あと5%安くなれば土俵には乗れるよ。他社品がそれくらいの値段だから」
営業マン「年間で120トン買っていただけるということであれば、特価として社内を説得できそうです。
ただし、納入は10トン単位でお願いしますね。運送費や容器代の兼ね合いがあるので」
というような密談をし、妥結点を見つけていく。
いかにしてこの案件を成就させることができるか?を共に考えていく。共謀する。
この「一緒にワリィことやってる感」が友情を育む。
前回の記事で「ぶっちゃけトーク」の大切さをお話したが、この精神は今回の「共謀」にも通底する。
お客様の味方になっちゃう営業マン、という構図が大事だ。
ただし、本当に籠絡されてしまっては意味がなく、ただの都合がいいだけの営業マンになってしまうので注意しよう。
そこは冷静に、あくまでも自社の利益は守りつつ、お客様にはあたかもそちら側の人間であるかのように見せ、振舞っていく。
こうして秘密を共有して、一緒にワリィことをした営業マンは信用を得て、友達になれる。
まとめると、結局のところ人は自分に得させてくれる人が好きなので、営業マンはそういう人になろう。
そのためには、自社の手札を晒してしまって、その中での落とし所をお客様と一緒に探っていく。
そうしてワリィことを一緒にやったお客様とは秘密ができて、友達になれる。
続き:貸しを作る
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