営業マンの実力とは、結局のところ新規開拓能力である。
もちろん新規開拓は難しいことではある。
しかし、新規顧客の獲得ができないと自社の業績は徐々に下がっていく。
事業・商売には賞味期限が必ずある。
今は稼ぎ頭の商材も、盛者必衰でいつかはピークアウトするからだ。
どんな事業・商売でも、新陳代謝は必ずある。
音楽を聴くための媒体も、レコードから始まった。
そしてカセットテープが生まれ、CDに置き換わり、一瞬MDが出て、そしてiPod(MP3形式)になり、今はスマホに組み込まれた。
カセットテープを作っている会社は今はもうないし、それに付随してケースやテープなどの付随する部品の市場もまた、消え去った。
その寿命の長さに違いはあれど、ピークがあれば衰退もある。
そのため企業というものは新たな商売、お客様を見つけ続けなければ、いつか潰れてしまう。
それを避けるための働き、つまり新規開拓が営業マンには求められている。
新規であれば何でも良いのか?
「新規開拓」というのは新しく取引を始めれば成立する。
大企業でも1件だし、中小企業でも1件、極端にいえば個人商店でも1件である。
新規開拓の「件数」だけを見れば同じ1件だが、これらが全然違うことは誰の目からも明らかであろう。
ならば有名な会社が絶対的に良いのか、といえばそうとも言い切れない。
仮に有名企業を開拓しても月に数万円の利益では有効とはいえない。
もちろんこのケースについては後述するが、大切なことは単なる「件数」や、「有名であるか」どうかではなく、「いくら儲かるか」が真に見るべきポイントである。
当たり前のことではあるが、意外と多くの人は単なる件数や有名さ・ビッグネームに固執して本質を見失うので、あえて述べておいた。
他社のシェアを奪う?
まず思いつくのは、他社品からの置き換えを狙う形の新規開拓である。
他社品で既に実績があるならば、使用数量や単価がわかるので(お客様から機密情報として聞き出す)、皮算用がしやすい。
上長にも皮算用の報告がしやすいだろう。
またこの20年は、限られた国内のパイを奪い合う戦いだったため、この概念がしっくりくる管理職も多いことだろう。
しかしながら、もはやこの方式は消耗線に陥ることがわかっている。
現行品を使っているということは当然、その品物が良いから使っている。
今まで実績もある良い材料なのである。
特に使用年数が長いロングセラーであればあるほど、切り替えを積極的に考える必要性は薄い。
「特に困ってない」からだ。
また製品によっては試験評価に1年、場合によってはそれ以上を要するようなケースもあり、その検証とデータ採りも考えると手間が膨大にかかる。
対して、立ち上げて間もない製品で不具合が連続しているとか、コストが高いとかであれば代替品の検討はされやすい。
しかしそれでも一度採用になっている材料を変更することは設計書を大幅に修正しなくてはならないことも多いため、やはり積極的にはなされにくい。
この場合は現行品メーカーにマイナー改良を依頼することが多い。
化学品にはこのような特性があるため、とにかく「切り替え」は大変な行為なのだ。
そのため、年間で何百万、何千万円もコスト削減メリットがある、くらいの値差でなければ検討も難しい。
また性能面で優っていたとしても、どうしても現行品よりも大きな単価アップは認められにくいため、自ずと価格が決定されてしまいやすい。
たとえ大きな付加価値があったとしても、安くないと買えない、ということである。
もちろんこれらをふまえてなお、儲かる案件も無くはない。
現行品の採用が50年前で、性能が低いのに高い、という状況は無くもない。
歴史が長い化学業界ならではの状況といえる。
その大昔の製品がいよいよ廃番になった時にはじめて、実は性能低いし高かったということが判明するケースもある。
そのような場合には積極的に切り替えを狙えば良いのだが、なかなかそのような案件に頻繁に出会えるわけでもない。
そして自社が値段で奪えるということは、今度は他社に値段で奪われてしまうということ。
そういうスタンスの顧客や商材は、相手にしていると儲からないスパイラルに入りやすい。
そのためまとめると、他社のシェアをこちらから積極的に奪いにいくというのはあまり美味しくはない、ということだ。
新規開発品への採用を目指す
私が推奨するのは「新規開発への採用」を狙っていくことである。
製品の仕様は、ひとたび決定したらその変更はなかなか難しいと述べた。
特に市場への出荷が始まってしまったものは、ますます難しくなる。
ということは、仕様を決定するタイミングに潜り込む、つまり新規開発品に採用されることが最善ということになる。
それを目指すためには、接触すべき人は購買部や調達部の担当者ではない。
実際に研究開発している技術部や開発部といった、先端の開発を行なっている人達である。
「門番」を突破する
多くの営業マンは、調達や購買には足繁く通う。
もちろん購買の窓口であるから当然といえば当然であるが、これらの窓口は「価格」と「発注数量」の話はできるが新規採用に関しての決定権はない。
そのため「技術部・開発部に紹介してもらう」というのが調達や購買と会う目的となる(価格交渉は購買だが)。
しかしながら、技術部や開発部の担当者も暇ではない。
彼らが研究開発の手を止めてメーカーと会うというのは、ともすれば研究開発の時間を奪うことになり、スピードを落としてしまう。
また重要機密を扱う部署であるから信頼関係のない部外者を接触させるのもリスクがある。
そのため簡単には技術や開発には接触できない会社も多い。
購買や調達という部署は、外から無限湧きする営業マンをジャッジして、技術や開発に進ませても良いか選別している門番のような役割もあるのだ。
既に取引があるとか、過去に共同開発したとかであれば直接アポイントを取ることもできる。
しかしそうではない本当の新規である場合には、まずこの門番にアポイントを取って、面接を受ける。
そして「この会社、この営業マンは使えそうだ」とお眼鏡に適ったら紹介してもらえるのだ。
門番のお眼鏡に適うには、やはり被購買力の3要素の偏差値が高いことが求められる。
第一印象ブーストで評価が高い位置から入り、豊富な知識経験トークでさらに印象を高める。
その上で善き友になれると感じてもらえたなら、警戒を解かれて技術部へ紹介されるであろう。
このようにサラっと述べてしまったが、実はこれが難しい。
第一印象と、善き友であることは個人の問題であるし、偏差値50でも何とかなる。
しかしながらこれらの要素は大切ではあるがメインではない。
やはりメインは「知識経験・実用性」という部分であり、この部分のレベルが低い場合には中々、門番を突破できないであろう。
第一印象と善き友は、複合させて言い方を変えると「愛嬌」となるのだが、「愛嬌」でゴリ押しできるのも限度がある。
調達・購買の担当者も人情として、この愛嬌モリモリの営業マンに何とか仕事をお願いしたいな、お付き合いしたいな、技術部に紹介したいなと感情面では思っていたとしても、そこに「実用性(知識経験)」が無い者を先に進めるわけにはいかないのである。
それは職務責任上、致し方ないことだ。
「なんであんな素人をウチ(技術部)に紹介したんだ?時間の無駄だったんだが」
と社内クレームが入ってしまう。
ゆえに読者の皆様には、勉強を放棄せず2年間にわたって知識経験を溜めてほしいと推奨をしているのだ。
しかしながら知識経験さえあればいいのか?といえば、そうでもない。
知識経験があって実用性があっても、第一印象が悪かったら理解してもらう前に足切りされるし、善き友でないと感じられてしまっても、深くは教えてもらえないし紹介もない。
これらは互いに補完しあって、どれも一定以上の偏差値が求められるが、中でも「知識経験」はコアになる部分であると捉えてほしく思う。
それを最大限に引き出すために第一印象と善き友であることが要るのだ。
有効な新規とは?
最後に、お客様をどうやって探すかについて。
お客様は、個人商店や中小企業もあるし、上場している中堅の会社、さらには誰もが知る大企業もある。
私も多くの案件に接し、新規開拓をしてきたが、その中で感じるのは「結局は大企業が強い」ということだ。
中小企業の中にも、光る技術や特化していてニッチな市場を独占しているケースももちろんある。
しかしながら、彼らが中小企業からさらに大きくなれないのには理由がある。
売上規模が小さいニッチな市場を相手にしていたり、たとえ大きな市場が相手であってもシェアを大きく取れるだけの製品性能や低コスト化ができないということである。
ニッチで少量だけど高く売れます、という商品も悪くはないが、化学メーカーという特性上、どうしても最小バッチの生産数量がある。
1回作ったら1年分になっちゃいます、というのは会社的にも許されないだろう。
倉庫のスペースは有限だからだ。
そのため、ある程度の物量があり、かつ利益率が自社内で許される案件のみが、実質的に新規開拓する価値のあるものとなる。
そうなると、ターゲットは自ずと大企業もしくはそこに連なる案件へ収斂していく。
大企業は、何もしないで大企業になっているわけではなく、大企業たりえる理由がある。
長い歴史の中で大きな市場を開拓し、その需要に見合う生産能力を備え、研究開発する人員がいる。
それが大企業を大企業たらしめているのだ。
そのため結局は大企業への直接販売もしくは、販売が中小企業でも最終的には大企業が扱う製品の部品になるというようなルートが必要である。
これをサプライチェーンといい、市場が大きく、かつ儲かるサプライチェーンにいかに入り込むか?が化学メーカーとしては大切な視点になる。
この視点が無いと「とりあえず新規」という狭い視野に陥り、儲からなくて少量の案件ばかりを追いかけてしまうようになる。
これらは、一応「新規」であるところがタチが悪い。
一見すると、多くの案件を一生懸命追いかけているように見える。
しかしよくよく精査すると、これらは小粒の案件ばかりになる。
この動きは「仕事している感」は醸し出せるが、真の実力者(幹部)には
「コイツは『やってる感』を出そうとしているだけだな」
「実はあまり考えてないな。脳筋か」
と見破られてしまう。
大切なことは「稼ぐ」という本質であり、これを最適化していこうとするためには「稼げるサプライチェーン」に接触し入り込もうとする試みが求められるのだ。
4年目以降に意識すべきこと
とはいえこの見極めには、さすがに数年の経験を要す。
入社して1〜2年の新人はまだ案件をジャッジできないし、いきなり大きな案件を狙っても実力不足で弾き返されるだろう。
購買部のジャッジをくぐり抜けられない。
そのため必然的に、ガードのゆるい中小企業や零細から攻めていくことになるし、そこで本項で述べたことを実感していくことだろう。
「ちっこい会社の案件は商売にならないな」と。
これは実際に自分で経験することが大切だ。
そしてこの時、
「ちっこい会社を相手にしていてはいつまでも新規の大実績はあげられない!」
と思うのか、
「まあ小さくても新規は新規。俺は仕事しているんだ」
と開き直るのは雲泥の差がある。
これは4年目以降で考えてほしい部分と思う。
1〜2年目は下積みで、基礎力を身に付けるフェイズ。
3年目はようやく独り立ちして新規に当たり始めるフェイズ。
ここで多少、中小の新規案件に当たって、
その効率の悪さを体験する。
そして迎えた4年目以降では、十分に身についた知識経験をもって大企業に挑んでいく。
言い方は悪いが、3年目の中小企業は練習台であると言える。
中小企業は最終的に目指す大企業のいる業界の端っこにいる場合が多いので、そこで業界の情報を得て、知識経験を増やす。
業界全体で何が求められているのか、何を目指しているのか、問題点は何か。
それらの情報を中小企業とのやり取りで学んで、自分の血肉にした後で4年目以降、大企業に挑戦していくのだ。
そのためこれを読む人に注意してほしいのは、未熟な1〜3年目に大企業に果敢に攻めかからないことである。
自分のレベルが低く、知識経験の数が十分でないときに大企業に行ったら「コイツ全然ダメじゃん」と印象は悪くなり、ブラックリスト入りしてしまう。
そうなるとアポイントが取れなくなる。
もちろん上司に「いけ!」と言われるケースもあると思うが、なるべく温存するか、アポだけとってデキる先輩や上司に同行してもらうなどの工夫が必要だ。
とはいえ、マトモな化学メーカーであれば有望な新規開拓先を新人に任せることはしないので、そもそも発生しないことも多い。
有望そうな引き合いがあった場合にはベテランに振り分けられるだろう。
そのため3年目未満の営業マンに注意してほしいのは無茶して大企業に突撃しないことだ。
行きたくても行けないよ、と思うかもしれないが極論を言えば飛び込み営業もできなくはないし、展示会で飛び込み名刺交換もできなくはないし、商社を通じて強引にアポイントにつなげることもできる(私はこれをやって何度かやらかした)。
しかしそのような高レベルのお客様と対戦するにあたって、自分に十分な力があるかどうか。
これは冷静に判断しよう。勢いだけでどうにかなるものでもない。
もしくは愛嬌のみでゴリ押して一旦かわして先輩や上司、技術者に同行してもらうなどの工夫をしよう。
しかしその場合は、あなた単体の手柄になりにくいので注意だ。
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